押したら降りる!

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大人の今、子供の頃に出来なかった「大人買い」が可能だ。
買い物以外でも、叶えたい願望はまだまだ多い。

バスに乗ると、子供の頃の願望が甦る。
この歳になっても、降車ボタンを押したいのだ。
そりゃ、自分が降りる場合は押す。
けれど、心ゆくまで何度も押したいのだ。

押せばただちに「ピンポ~ン」と鳴り、「次、停まります」のガイドが流れる。
続いて運転手さんも、ナマの声で「ハイ、次、停まりまーす」と、テープに続いて繰り返してくれる。
ただ押すだけで、この一連の流れになり、大型車が私だけのために、実際に停まってくれるのだ。
それはタクシーよりも大掛かりな手順であって、申し訳なくも有難いことだと、ささやかな感動すら覚える。

停留所ごとに、高齢者がずいぶん乗り込んで来る。
私は後部座席にどっかと腰掛け、高いポジションからそれらを観察する。
世の中には、なんと高齢者が佃煮に出来るほど多いことか。

私は常日頃から、高齢者には敬意を払っている。
苦しい戦争の中を生き抜き、高度成長の立役者となって、今の日本の繁栄の土台を作ってくれたのだ。
みんな、もっと高齢者を労わらなければいけない。

膝や腰が痛いだろう。
肩が凝るだろう。
腕も上がらないだろう。

そこで、私が代わりにボタンを押して差し上げることを思いついた。
見ていれば大体はわかる。
降りようとする人は、バッグに手を入れてモゾモゾ始めたり、身支度を軽く点検し、荷物を持ち直したりする。
そしてボタンに手を伸ばそうとしたその瞬間に、私が押すのだ。

それによって、高齢者は腕を上げる手間や苦痛から解放されるし、私だって、ボタンを押す快感に浸れる。
一石二鳥? 一挙両得?
適切な表現が浮かばないけれど、これでいいのだ。
ドーパミンだかセロトニンだか小難しいことはわからぬが、とにかく体内の物質がどうにかなって、そこそこ気分が良い。

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バスが進むにつれて、だんだん車内が空いて来た。
それだけ私がボタンを押したということの証しで、車内での転倒事故なども一切なく、バスの運行は順調である。
社会貢献、共存共栄、安全第一、などという言葉が脳裏をよぎる。

優先席に腰掛けていたお婆ちゃんがボタンに手を伸ばしかけたので、一瞬早く、また私がボタンを押した。
ところがお婆ちゃんの動作は、手荷物を持ち直し、マスクを掛け直しただけで終わった。
フェイクだったのだ。
「次、停まります」

乗客は他にも数人いたが、誰も降りる気配がない。
バスは停留所に近づく。
「車内事故防止のため、バスが停止してから座席をお立ちください」

仕方なく、私独りだけ降りた。
これは散歩なのだと自分を騙しながら、本来降りるべき場所まで、1キロ以上をトボトボ歩いた。
歩くのは健康に良いんだぞ!


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  途中の銀杏がきれいだった。





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