不倫の行方 2


不倫の行方 1」からの続き。


彼と私はギター仲間だった。
当時、彼は19歳。
私は自分のギターを抱えて彼の自宅へ通った。
ギターで結びついた縁といえどライブなどの活動は一切なし、あくまでも二人でギターを弾くことだけが楽しかった。
それもオリジナル志向。
分担は決まっていた。
彼が詞を書き、私がメロディをつける。
そしてアレンジ。
そんな作業が楽しかった。

彼は半年前にひとつの恋愛を終えていた。
私が彼と知り合ったのはそんな時期だった。
本当の恋は人生に一度だけ、と落胆していた彼の詞がある。


      バス通り

通りひとつ隔てただけで もう君の声が聞こえない
春はたけなわの花吹雪 バス通りの歩道にたたずむ
「愛しているわ」 君のくちびるが動いた気がした
希望的観測の先入観 うん きっとそうだ

君を信じているんだ だから生きていける
あと二年待ってくれ 男の身勝手を振りかざし
君がそれを受け入れてくれることを知っている
また待たせることになる ずるい奴だね

涙に暮れる時代があった まだ笑い話にはならないけど
その上にまだ涙を求めてるというのか
笑顔の陰に隠れた君の悔しさに背を向け
人生の長さを嘆く いやらしい男がひとり

春が来たとて春を謳えず それが今の癪の種
僕の最短距離は君への回り道 分っている
もう若くはないものね 十代の恋の終わり
春が来たとて 春を取り込めない男と女

同じ価値観で分かち合うものは心
同じ価値観で分かち合えるものは身体
季節を共に生きることのできない歩み
君は軽く手を振って バスに乗り込む



大切な人との別れを自分のせいにして、でもそれを穏やかな言葉で詞に起こす穏やかな男だった。
そして彼は20歳になり、一人の女性と出会う。
ひとつの恋が終わると、男はかつての恋人に未練を残すらしい。
「もう一生、これ以上の恋なんてしないだろうな」
そう自嘲気味に話していた彼が、かつての恋人を忘れ、新しい恋に向かって歩き始めた。
この性格が後に多くの波乱を招くのだが、まだ彼は自分の恋心の本質に気づいていなかった。
でも今は措いておこう、追々分かってくることだから。
新しい相手は彼と同じ20歳。
友人ということで紹介してもらったが、長い髪と大きな瞳の、言葉には表せないほど可愛い女性だった。
彼女と知り合った頃に作った詞が残っている。
もちろん私は大歓迎で曲をつけた。


    青空

僕が苦しい時 君の笑顔があれば
透き通る青空に涙を散らし
引きずる影は短いほうがいいんだ
だから上天気の午後が好き 涙さえすぐ乾く

君と踊り明かした夜は 雨降り20歳の日
ひとつの傘で肩寄せて歩いた 午前零時のキラー通り
電話BOXの前で 君は外泊の言い訳を考えていた
大人同士の恋を気取って カクテルに頬染める

君のくびれた腰 そっと引き寄せたなら
ラストダンスの甘いメロディ せつなく響く
恋の始めの しびれるようなときめき
君と知り合えてよかった もう離したくはない

雨上がりの街が いつしか夜明けを迎えてる
踊り疲れ 寝不足な目で 始発の地下鉄を待つ
長く暗いトンネルを抜けて 青空の下に飛び出そう
重いコート脱ぎ捨て 君と歩き始めてる



成人式の夜の出来事を書いたものらしい。
曲はつけたが、恋に浮かれるだけの面白くない詞だ。
ちなみに、当時はディスコブームの真っ只中だった。
スティービー・ワンダーの合間のチークタイムは、メリージェーンあたりか。

奥手な彼が、彼女とのファーストキスを迎えたのは4月29日の天皇誕生日の夜明け。
場所は鎌倉八幡宮の源平池畔のベンチ。
六本木から横須賀線の終電に乗ってやって来た。
彼女は再び実家に口実をつけて外泊したらしい。
成人式から三ヶ月、奥手にもほどがある。
それだけ彼女を大切に思っていたと考えるのは、好意的すぎるか。
やがて二人は身も心もひとつになる。
彼女は、彼が初めての男性だった。

彼女は月に一度ほどのペースで泊まりに来た。
そして愛し合った。
この間の彼らの恋愛を語るのは退屈だ。
互いに結婚を意識し、それでも数々の行き違いから、二人は二年後に別れることになる。
ある日、彼女は風のように忽然と消えた。
それが最後だった。
当然のように、彼に未練は残る。
しかし彼女にも埋火のような残滓があった。
それはいずれ判る。
これらが、後のすべての出来事の伏線になっていく。


 3に続く。


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