紅旗征戎吾が事に非ず


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朝、北朝鮮がミサイルを打ち上げ、東京メトロ全線が止まった。
結局、失敗したらしいが、韓国は日本のこの対応に失笑したとの報道があった。

それでも、成功してしまえば東京には数分で届くのだから、文句を言ってもジタバタしても為す術がない。

政府の避難指示のスタンスは、頑丈な建物に避難するか、間に会わなければ窓から離れろ、と言うことらしい。

かつて北朝鮮の核施設攻撃を検討したクリントン政権も、相手からの反撃なども含めた被害予測の甚大さに攻撃を断念した。

原発ひとつ取っても、先進国は戦争が出来ない。
本当に戦争を始める気なら、日本の原発をすべて止めてからではないのか。

駐留米軍基地や永田町を核ミサイルで叩いたり、もしくは化学兵器を使うより、原発に命中させれば列島規模で甚大な被害が出ることくらい北朝鮮は百も承知。

もっとも冷静に考えれば、北が真っ先に標的にするのは、ソウル市内か青瓦台か米本土か在韓米軍か第七艦隊であり、だからこそ、そんな常識的なことがわかっている韓国が失笑するのだろう。

くどくど言うつもりはないけれど、発射してから30分も経って東京の地下鉄だけ停めても意味はないでしょう、と言うことです。

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さて話変わって、保元の乱を境に、古代から乱世となる中世が始まった。
朝廷の分裂は源平の武士を必要とし、世情は混乱と混沌を招いた。

その中で、まだ二十歳前の藤原定家(1162~1241)は日記、明月記を治承四年(1180)二月から記し始めるのだが、九月にはすでに次の記載が見える。

世上乱逆追討、耳に満つと雖も之を注せず
紅旗征戎、吾が事に非ず


この「紅旗征戎」の出典は白楽天(白居易)で、

紅旗破賊は吾が事に非ず
黄紙除書(こうしじょしょ)に我が名なし
ただ嵩陽(すうよう)の劉処士(りゅうしょし)と共に
棊を囲み酒を賭して天明に至る


黄紙除書は天子の詔と任官の辞令、劉処士の劉は人名で、処士は仕官しない在野の人を指す。
訳すと、おおよそ次の意である。

戦いは自分のことではない
天子の詔と任官の辞令にも自分の名前は載っていない
ただ嵩陽の劉と共に
碁を囲み、酒を賭けて夜明かしした


定家が記した赤旗は、もちろん平氏を指す。
しかし、定家は源平の争乱に関心がなかったわけではない。
現実の醜さに対する怯えから来る現実逃避願望が、このような独白をさせたと、これは私見。

怯えの正体は右大臣、藤原兼実の四月の日記から窺える。

火災盗難、大衆兵乱、上下騒動、緇素奔走、誠にこれ乱世の至りなり。
人力の及ぶところに非ず。


緇素とは仏僧と俗人のことで、およそ誰彼関係なく、京の町を戦乱に逃げまどい、右往左往していたことがわかる。
定家もこのような光景は目にしていたはずで、吾が事に非ずと逃げるのだ。

ところが西へ敗走する平家軍とは違い、定家は京にとどまるしか方策がない。
生活基盤の京を離れれば、京以上に生きて行くのが困難な時代だった。

後世の我々は激動の十二世紀を興味深く調べるが、十二世紀の現実を生きる人たちには辛い時代だっただろうと単純に思う。

画像定家六十歳の時には、後鳥羽上皇が鎌倉幕府執権、北条義時を倒そうと挙兵したものの敗れる、時代の本当の転換点となった承久の乱が勃発する。
定家はここでも「紅旗征戎吾が事に非ず」と記すことになる。

時に天下大いに之を徴す
天子三上皇皆御同所
白旗は風に翻り霜刃は日に輝く
徴臣の如き者、紅旗征戎は吾が事に非ず
独り私盧に臥して暫く病身を扶く
悲しきかな、火は崐岡(こんこう)を炎(や)き玉石倶に焚く
残涯を猜思し、ただ老涙を拭ふ


六十歳で再び「紅旗征戎吾が事に非ず」と記した定家だが、十代の頃の記述も、晩年のこの時期に書き直したか加筆した可能性が大きいとの研究もありで、真偽は不明ながら、それでも時代の厳しさは伝わる。

当時の定家のスタンスは、親幕派の貴族たち(西園寺家、九条家)との密接な関係もあり、立場上も不遇なポスト(正三位民部卿播磨権守)に甘んじていたので、討幕には消極的であり、関心もなかったのだろう。

地下鉄を止めても窓から離れても、それは消極的な対処療法でしかない。
定家の「紅旗征戎吾が事に非ず」が浮かんだ一日だった。

豊洲や森友、海外ではイギリスのEU離脱、トランプ政権誕生、そしてこれから決着がつくフランスと韓国の大統領選等々、すべて吾が事に非ずである。


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