宵越しの記憶は持ちたくない


画像
交差点で点字ブロックの設置作業をしていた。
珍しいものだから、邪魔にならぬ距離を置いてしばらく見ていた。

設置といっても、最初にマスキングして黄色のペンキを流し、それをコテで延ばしながら塗り、その上にイボイボのついた薄紙を乗せて、最後に刷毛でコーティングする手順だった。

すると、作業をしている人から声を掛けられた。
「珍しいでしょ」
「ええ、まあ」
曖昧に答えた。

どうも話好きの方たちらしく、手を動かしながら、いろいろ教えてくれた。
「この方法はね、一番簡単なんだけど、コストが掛かるんですよ」

なるほど、町中でよく見かけるタイプは、イボイボのパネルを貼り付ける仕様で、他にもタイル状の板を埋め込んだものなどが浮かんだ。

画像
でもこの方法だと、作業開始からコーティングが乾く終了まで、30分とかからないらしい。
コスト高にしても、そんな方法があったのかと、こちらは感心しきりである。
点字ブロックは町中で必ず目にするけれど、社会に役立つ仕事を実際に見学できるとは幸運だった。

ほんの少しだけ、福祉関係の仕事に携わっているので、障がい者さんにかかわることには殊のほか関心が動く。

点字ブロックがあったとしても、ホームドアが設置されていないために転落死亡事故が起こったりのニュースに触れると、人間の命が消耗品だった時代じゃあるまいし、どうしようもないやるせなさに胸が塞がる。

それに差別用語もいまだに気にかかる。
「障害者」の「害」が、障がいを持った方には受け入れがたい漢字であることは周知のこと。
中には漢字を切り離して考えるから余計な誤解が生じるとか、以前のように「障碍」の表記に戻した方が受け入れやすいとの意見もある。

だから「障害者」のままで良いとの主張もあって、この部分はかなり悩ましい。
しかし、たとえ一部の人でも、「障害者」表記に納得できないのであれば、そちらを尊重したい。
マイノリティでも、それを嫌悪する人がいるからには心に留め置く必要がある。
安易に一般大衆に迎合すると、ろくなことは起こらないと思うからだ。
私はおっちょこちょいだから、過去に「障害者」と書いてしまった個所があるかも知れないが、ここでごめんなさいとお詫びします。

差別用語に関しては以前にも触れた(参照)ことがあるが、改めて考えてみたい。
「ブラインドタッチ」が差別用語で、「タッチタイピング」に変わったことを知ったのはここ数年のこと。
他にも「インディアン」や「エスキモー」がアウトであることは古くから知られているし、「植物人間」は「植物状態」と言い換えなければいけない。

私が子供の頃は、心身に障がいのある児童や生徒のための「特殊学級」なる学級が存在した。
この「学級」自体は現在も存在するが、「特別支援学級」と呼称が変更されている。
変更は2006年からである。

ほぼ同時期に、「肌色」も薄橙(うすだいだい)色に変更されたのは周知のこと。
肌の色や宗教で人を判断する悪弊に直結するので、こればかりは特に戒めなければいけない。
だから、色鉛筆やクレヨンを使う児童・生徒は「肌色」を知らないはずだ。
差別意識を根絶する最初の一歩であり、こればかりは文科省や教職員の努力の結晶と評価したい。
これによって偏見による負の連鎖が止まればいいのだが、方向性は正しい。

さもないと、アメリカの白人警官が一般市民の黒人を有無を言わさず射殺するような類似事件が、日本国内でも発生してしまう。
19人が殺害された津久井の事件を思えば、過度な心配ではあるまい。
民族主義、優生思想の危険な部分である。

他にも、「目眩まし」もいけないし、かつて流行した「口裂け女」などもいけない。
これは口唇口蓋裂の障がいを持つ人が不愉快な思いをすることに考えが及ばなかった、言葉に対するルーズさから生じた差別である。

画像
話は最初に戻る。
「写真、撮ってもいいですか」
「構わないですけど、インスタですか?」
「いいえ、もしかしてブログにしようかと…」
「どうぞどうぞ、顔見えた方がいいですか?」
「どちらでも」

インスタがインスタグラムであることを知ったのは、今年に入ってからのこと。
仕組みもわかったが、不特定多数で画像を共有して、どこが、そして何が楽しいのかが不明である。

他にも「塩対応」とか「神対応」なんぞも今年覚えてしまった言葉である。
「ディスる」とか「リア充」も同様だ。
使うことはないけれど、言葉だけ覚えてしまったのだよ。

使わない言葉をしっかり覚えてしまった反動は、必ずやって来るから怖い。
やっとこさ記憶したさまざまなパスワードや暗証番号が、トコロテン式に脳ミソからこぼれ落ちていくのではと不安になる。

思えば、無駄な知識の蓄積を重ねに重ねて、今日まで生きて来てしまった。
円周率は小数点以下10桁くらいまで覚えたが、円周率×半径×半径を使う状況に遭遇したことは一度も無かったし、だから円の面積を計算したことは皆無である。
誰か、今までの人生に於いて、円の面積を求める必要に迫られたことがあるのか。

無駄な知識(記憶)は数えきれないほどキープしている。
戦国時代の天正遣欧少年使節などは、その最たるものだろう。
伊東マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルティノ。
だからどうした! 試験には出なかったし、誰ともこんな会話をしたことなんてまったく無かったぞ。
天正遣欧少年使節を肴に、一晩中飲んで語り明かせるのか。

10代の頃に観た、ソ連(まだロシアになるずっと前である)映画の「貴族の巣」のヒロインを演じた新人?女優、イリナ・クプチェンコの名前を覚え(記憶)続けている。
ヴェルヌの「地底旅行」では、アルネ・サクヌッセンムという錬金術師の名前が、何故か忘れられずに困っている。
イリナ・クプチェンコとアルネ・サクヌッセンムで三ヵ月後の忘年会を盛り上げられるのか。
これらのややこしい名前を忘れることが出来たら、暗証番号の二つや三つは覚えられるだろうに、忌々しいことだ。

こうして肝心なことは覚えられず、いや、忘れてしまい、ボケ老人まっしぐらなのだ。
ちなみに、「ボケ老人」は差別用語とされている。
自分が言うのだから大目に見て欲しい。

今回は、終わり方が何か変だ。
予定外のところに着地してしまったようだ…。

散漫的な思考を振り切り、交差点を渡った。
交差点を渡った先の世間が鬼ばかりだとしても、古い記憶を道端にぽろぽろこぼしながら、マイノリティとして目立たずに歩いて行きたい。


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 7

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い 面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)

この記事へのコメント

美代子
2018年03月07日 10:15
 時雨亭さん、内緒ですが、円周率は間違っているそうです。3.1415ではなくて、3.144・・・だそうです。この円周率の間違いが、小惑星衝突と大きく関係するらしいです。なるほどと目からうろこです。笑。
時雨亭
2018年03月08日 05:24
ヤバいじゃないですか。映画「アルマゲドン」の世界そのままですね。うろこならまだしも、小惑星が堕ちたら地球人は逃げるところがなくて困ります。一瞬で逝くならともかく、酸素などの大気が宇宙に散って、呼吸困難になってもがきながら逝くのは嫌です。美代子先生、何とかして下さいっ!
2020年01月
         1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31   

過去の記事

テーマ別記事

最近のコメント

QRコード