ポンコツおじさん


朝の七時頃だったろうか、同居人に起こされてベッドから出ようとした瞬間、腰に激痛が走った。
高圧電流に触れたような痛みで、どうしても起き上がれない。
それでも瞬間に頭を廻ったのは仕事のことで、今日は休みなのだと思い出し、心の底から安堵した。

「大丈夫?」
うん、とは言ったものの、やはり痛みで起き上がれない。
それでも激痛は左腰辺りなので、体の向きをあれこれ変えながら、一番負担の少ない態勢を探り、どうにか起き上がってベッドに座ることができた。
ところが今度は立ち上がろうと前かがみになると、また激痛に襲われる。
姿勢を正そうとしても激痛が走る。

やっとのことで立ち上がると、痛みは少しだけやわらぐ。
しかし歩こうとするといけない。
そろりそろりとしか歩を進められないのだ。
慎重に寝室とリビングを往復してみる。
牛歩よりもゆっくりとしか歩けない。

朝だから、とにかく身支度はしなければと、椅子に座って靴下を履くことにするのだが、前屈で右足は履けたものの、左足が床から数センチしか上がらず、履くことができない。
同居人に手伝ってもらい、やっと靴下はクリアできた。
同じようにジーンズも右足は入れることができるのだが、左足が上がらないので無理。
また同居人の手を煩わせることになった。

何とか身づくろいを整え、またゆっくり歩いてみる。
いつものことだが、疲れは腰に溜まる体質なので、今回はそのツケがいきなり来たのだと思った。
寝不足は厳禁なので、いつもベッドに入る時間は早い。
だがこのところ何故か寝つきが悪く、睡眠時間は連日二時間ほどしか取れていない。
だから、真っ先に仕事のことが頭に浮かんだのだ。
今日一日安静にしていれば回復するだろうと…。

少し良くなったらドラッグストアに湿布薬を買いに行こうと、時計を見ながら開店時刻を頭に室内を歩き回り、店まで歩けるように体を慣らすのだが、やはり左足が上がらずに苦労する。
いつもなら気にも留めないこんなことができず、自分の体が自分の意思に同調しないもどかしさと歯痒さに、苛立ちを通り越して不安になる。

それというのも、数年前から前立腺に問題を抱えていて、そこに激しい腰痛と来れば、まるで誰かさんと同じパターンではないか! との疑念が湧くからだ。
ついにオレにも来たかと、諦観やら反発やらの感情が一度に押し寄せ、だがこの瞬間も激痛は治まらず、思考は定まらない。

少しだけ立ちくらみを感じて椅子に座った。
この姿勢は楽だが、前屈みになると相変わらずの激痛。
もういい加減にしてくれよと、自分に毒づくだけ。
そうしている間にもめまいはひどくなり、座っているのもつらくなってきた。
「ちょっと、めまいが進んだ気がする」
「横になったほうがいいんじゃない? 顔色が悪いよ」
血の気が引いて顔面蒼白であろうことは、自分でも想像がつく。
同居人に促され、また、そろりそろりとベッドに逆戻りし、仰向けになった。

うっすらと冷や汗をかいている。
タオルで額を拭ってもらった。
そのうちに、楽な姿勢なのに、じっとしていると軽い吐き気がやってきた。
同居人に洗面器を用意してもらう。
「疲れと寝不足が重なったんじゃない?」
たぶんそうなのだろう。
「救急車呼ぼうか?」
それはちょっと大袈裟のような気がする。

「低血糖症かもしれないよ」
「糖分は昨夜、炭水化物で補った」
わざわざリクエストをして、焼きビーフンを作ってもらったのだ。
「足りてないのよ、それじゃ。お湯にお砂糖溶かして持って来ようか」

言われてみればそれも道理で、ならばと微糖ではない、糖分たっぷりの甘い缶コーヒーを開けてもらい、寝たままの姿勢でちびちび飲んだ。
空腹もいけないと、これまた寝たままバナナを食べさせてもらう。
吸収効率のいいのがバナナの利点で、一時間ほど安静にしていると、めまいや吐き気は解消した。
やはり低血糖だったのだろう。

しかし元凶は腰痛なので、ドラッグストアの開店時刻をもどかしい思いで待つしかない。
それまでは、外を歩けるように、また室内をそろりと歩き回るのみ。
腰痛は一向に治まらず、いっそ、今日一日は温めの風呂で半身浴でもしていようかと考えたりする。
(キンカンが腰痛に効くとかで、何度か塗ってもらったが効果ナシ)

とにかく、満足に歩くこともできないこの激痛を何とかしたい。
でなければ、いっそ入院してしまえばモルヒネ投与でもしてくれるのではないか、などと悲観的なマイナス思考に陥るだけだ。

画像しかしここでハタと思いついた。
痛み止めなら常備薬としてロキソニンがあるではないか。
ダメ元で飲んでみよう。
まず一錠。
ダメ元とは言いながら、どうか効いてくれと祈るような気持ちで飲んでみた。
十分、二十分、そして三十分…。
効いてきた!
さらに時間を空けてもう一錠。
痛みのマックスの二割か三割程度にまで治まった。
試してみるもんだ。

そして薬効成分が切れるだろう時間を過ぎても、あれほど苦しんだ痛みの再来はなかった。
だが時限爆弾を抱えていることは確かなので、これからは慎重に日々の暮らしを重ねようと気持ちを新たにした次第。

しかし、これほどポンコツおじさんになっていたとは、ちと油断しすぎていたわい。
いつまでも若いと思うのは自分の勝手だが、周りに迷惑をかけることは極力避けたいものだ。

同居人に感謝。

しかし、この一時的な回復は、最期の残照のようにも思えるから悩ましい。
いよいよ人生の秋であるなあ。



この記事へのコメント

mariko
2014年10月29日 20:06
メールしてすみませんでした。
お元気なご様子で心から安心しました。
ご自愛ください。
管理人
2014年10月30日 20:35
眠れない日々の連続だったのに、最近は昼夜関係なく眠くて困ります。
このままずっと目覚めなくてもいいわい、などと思うほど怠惰で自堕落な生活を送っておりまする。
2017年12月30日 17:58
笑ってごめんなさい(._.)
人の振り見て我が振り直せと
ならないように・・気を付けます(^_-)-☆
時雨亭
2017年12月30日 20:25
こんばんは
こんなにダラダラと長い文章は
いつも推敲して1/3程度に収めるのですが
よほどヒマだったんだと思います
最後まで読み切って頂き痛み入ります

先日は妻が腰痛になり
渾身の力で指圧して恩返しを果たしました