母の忌日に思うこと


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今日は平成5年に逝った母の墓参に出掛けた。
それから今日までの月日を想うと、回りの状況も含め、私の日常も大きく変化していることに思い至る。
不肖の息子は、その変化の波に流され、かろうじて今を生きている。
母はどこかからそんな私を見て、ハラハラしているのだろう。
だが、その気配を感じ取れない私は、死について考えるとき、天国や極楽は本当に存在するのかと懐疑的になる。

死んでしまえばすべては無であることを、今更ながら実感している。
ただ、死者が現世に戻った例は未だかつて無いので、死後の世界とは、よほど素晴しい場所なのだろうと想像し、生者の慰撫の拠り処にするしかない。
これは自身の宗教観ではなく、漠然とした諦観である。

私は不信心な仏教徒で、仏意や弥陀の本願を理解するにしても、それを現世との関係に直結させる努力はせず、もっぱら僧侶任せにして事足れりとしてしまう脆弱さを内包している。
それは自己研鑽の欠如であり、狭義での親不孝者であるという結論に収斂される。
だからこその、不肖の息子なのである。

平成5年は、社会全般でも激動の年だった。
元自民党副総裁の金丸信が脱税容疑で逮捕され、皇太子徳仁親王と小和田雅子さんのご成婚があり、当時の宮澤首相が議長を務めた東京サミットがあり、北海道南西沖地震が起きて奥尻島が津波に襲われ、河野官房長官が河野談話を発表し、38年振りの政権交代で万年与党だった自民党が下野し、非自民非共産連立政権である細川内閣が発足、55年体制が崩壊した。
ネルソン・マンデラ氏にノーベル平和賞が授与され、サッカーではドーハの悲劇があり、オードリー・ヘプバーン、田中角栄が亡くなった年でもあった。
冷夏で米不足が深刻化したのもこの年で、翌年はタイ米を始めとした輸入外国米が国内に多く流通し、ファミレスのライスも、細長い東南アジア米が主流になった。
こうして思い出すと、その時代が鮮明に浮かび上がる。

しかし、あと三ヶ月は持つ、と医師から言われた母の病状が急変し、お盆の最終日に逝ったことに対し、生者はそこにどうしても意味付けをしてしまう。
当時、祖母は自宅で寝たきりの状態で葬儀一切には出席できず、かといって母(娘)の死を隠すわけにもいかず、事実を伝えた。
伝えるこちらも辛かったが、逆縁になってしまった祖母の心中を想うと、祖母もまた辛かっただろうことは想像するまでもない。
祖母はそれから七ヶ月後の、春の彼岸に逝った。
繰り返しになるが、お盆に逝った母が現世に未練を遺し、何事にも律儀な祖母が、彼岸に死出の旅を選んだ訳ではあるまい。
しかし偶然は、見送った生者の想像に脚色をつけてしまう。
母を始めとして、それから九年間に、血縁の身内が次々と十三人逝った。
いよいよ血縁が途切れ、私が無縁になる日も、そう遠くはない。
これが現実である。

いわゆる、官報に載る行旅死亡人が、毎年、自殺者と同数もいる事実を、多くの人はそれほど気にも掛けないが、他人事ではない。
「無縁社会」の造語が出来て久しい。
孤独死が無縁に直結するのは、社会が核家族から更に単身へと移行した現代の深刻な問題であり、これからも確実に無縁社会は拡大する。
原因は離婚であったり、伴侶との死別であったり、子供の自立であったり、生涯未婚であったりと、血縁関係はもとより、社会との関係も途切れることにある。
親が子を殺し、子が親を殺す、または親子心中のニュースなども、残念ながら日常的に聞くようになった。
それらの亡くなった人たちは、遠縁の身内がいたとしても、遺骨の引き取りを拒否するケースが大半であるという。
冠婚葬祭で一度か二度程度しか会わず、それもほとんど会話をしたことのない甥や姪などには、叔父や叔母の死は迷惑以外の何ものでもないだろう。
血縁、地縁、社(会社)縁なども年月と共に薄れ、忘れ去られてゆく。
だからなのか、それとも無縁を覚悟してか、東京の小平霊園の「樹木葬」募集に対し、十倍もの申し込みがあった。
単なる墓不足だけでは済まされない社会の現実が、この倍率に表れていると想像するのは穿った見方であろうか。

来年は母の二十三回忌。
生者の役割は、いつまでも死者を畏敬し、供養することに尽きる。



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