終わり良ければすべて良し


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かなり遠縁の、爺さまと婆さまが上京した。
爺さまは前日に来たものの、婆さまは家のことなどもあり、今日になった。
そこで東京駅まで迎えに出た。
息子から、
「何時何分発の何号車に乗せました」
と連絡があったので、その婆さまの特徴を聞いて待っていた。
爺さまは何度か会って知っていたが、婆さまは初対面。
何色の服で、バッグと紙袋を持っているとの情報だけだから、果して分かるだろうかと懸念していたが、すぐに分かった。
婆さま、川へ洗濯に行かずに東京へ来た。
何しろ男手が足りず、手分けして羽田やら東京駅やらへ迎えに行かなければならない。
夜勤明けなので、何だか面白くない。

初対面なので、これといって話題もない。
そこで定番のお天気のことや、今回のことなどで話題をつなぐ。
その流れで、
「食事は済みましたか」
と訊けば、まだだという。
婆さまといえば、繰り返し使っているペットボトルにお茶を入れ、自宅で作ったおにぎりなんぞを車中で飲み食いしているものとの勝手な思い込みがあった。
「それじゃ、まず食事をしましょうか」
と告げ、さて、やっぱり高齢者はハイカラな食べ物ではまずいだろうなと判断、新蕎麦の季節でもあるし、天ざる蕎麦を食べることにした。


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「てんぷら蕎麦を頼んだのに、お蕎麦じゃなくてご飯が来ましたね、店員さん、間違ったんでしょうか」
「そんなことはないと思いますよ」


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「二重になってんだよ!」
とは言わず、
「ほら、二段重ねになってましたよ」
と穏やかに説明した。
上のお重を持ち上げると三色の蕎麦が出現したので、婆さま、安堵と大感激。
「時間がないんだから早く喰え」
とも言わず、マイペースの婆さまが食べ終わるのを、蕎麦湯なんぞをチビチビ飲みながら待った。

これといった話題もないまま、目的の家まで婆さまを送り届け、爺さまと無事に合流させた。
家には、地方からやって来たジジババたちが、すでに佃煮にするほども大量にいた。
その中を、業者がドライアイスの交換などしているものだから、大きな家なのに私の居場所がない。
もっとも、ゆっくりなどしている場合ではないので、キッチンに立ったままお茶を一杯だけ飲んで、早々に車へ戻った。
実は、今日で車検が切れるのだ。
ディーラーへと急ぐ。


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オイル交換程度で簡単に済むと思っていたのに、タイヤの溝はまだ充分にあるのだが、ゴムが劣化して細かいヒビがあると言われ、仕方なくタイヤ全交換。
「いまちょうど、タイヤ祭りの期間中なんで、お得ですよ」
などと言う。
お祭りなのに、神輿も夜店もなく、ただパンフレットとポスターがあるだけ。
時間があれば、タイヤ屋へ行って、もっと安いタイヤを履かせるのだが、そこまでするのもみっともないからあきらめて承諾した。


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一時間半程度で終わるらしいので、ショールームの隅っこで、飲み放題のドリンクをガブ飲みする。
担当者が来て、見積書を出した。
うーむ、そんなにかかるのか…。
昔が懐かしい。
以前はもっとフレキシブルな対応だった。
担当がずっと同じ男だったこともあるが、例えば見積りが18万円だとすると、
「10万円にしてくれ」
「勘弁して下さいよ~」
「じゃ、次に買い替える時は、お前以外から買う」
「15万でどうですか」
「じゃ、間を取って12万にしよう」
「それでは間にはなってないじゃないですか」
「嫌なら他でやる」
結局、13万円ですべてが済んだ。

新車でまだ一年しか乗っていないのに、
「あと1台でノルマまで届くんです、何とかお願いします」
当時はこちらもそこそこ景気が良かったから、それほど魅力を感じない車種だったが、言われた通りに買い替えたこともあった。
もちろん相手の弱みだから、おそらく利益なんてほとんどないだろうにせよ、そこにつけ込んでこちらが心配するほどまで値切った。
今と違って、10万20万の値引きは当たり前の時代だったから、値引き相場のおよそ3倍くらいまで引かせ、なお且つオプションをあれこれと要求してフル装備にした。
その担当者はやがて所長になり、買い替えはいつも一般客が購入するよりも、所長裁量でかなり安く買うことが出来た。
いい時代だった。
担当の彼は、やがて本社勤務になり、もう定年を迎える年齢だ。
兄の葬式にも来てくれて、すでに商売を超えた付き合いにもなっている。

隣ではハイブリッドカーの商談がまとまって、その担当者が、
「じゃあ、サービスで、ひとつ上のタイプのナビをお付けしましょう」
などと言う声が聞こえた。
やっぱ、新車を買わなければダメだ。
こちらにも整備の担当者がやって来て、ワイパーのゴムを無料で交換しておいたと恩着せがましく言う。
車検程度では、そのくらいのサービスしかしてくれないのだ。
ところが仕上がって明細を見ると、確かにゴムは0円だが、取り付け工賃が前後合わせて1,806円計上されている。
今日で車検切れなので仕方ないが、ワイパーの交換くらいは、オートバックスでゴムを買って自分で簡単に取り付けられるわい。
まったくもって面白くない。
カードで清算し、途中のスタンドでリッター132円のところを2枚のカードを提示して128円の現金払いで入れ、そのままジジババを迎えに戻った。


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ジジババたちがいる家まで戻ると、私の夕食分として鉄火巻きが残っていた。
訊くわけにもいかないので黙って食べたが、みんなは特上握りを食べた気配がある。
面白くない。

お寺さんの都合で、Xデーは明日、明後日になった。
私が迎えに行った婆さまは、爺さまと千鳥ヶ淵近くのホテルを予約してあるという。
そこで、また都内まで送ることになった。
爺さまとは面識があるので、今度はそれほど会話が途切れることはない。


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観光で来ているわけではないのに、婆さまは、爺さまの連れ合いというだけの理由で、東京が30年振りくらいらしく、日本橋や銀座を見たいとわがままを言う。
ホテルから遠いわけでもないから、30分ほど、都心をドライブすることにした。
日本橋の三越本店。


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続いて左高島屋、右丸善。
爺さまは丸善には昔、何度かノートを買いに来たことがあるらしい。
私は、丸善といえば無条件で梶井基次郎を連想するのだが、梶井は京都の丸善を念頭に置いて書いたものだから、ここではない。
口の中が酸っぱくなってくる。
しばらくここの「早矢仕ライス」も食べてないなと思う。


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銀座四丁目。
左三愛、右和光。
珍しくもない光景だが、婆さま大喜び。
店によっては早くもクリスマス商戦が始まっている。
一年は早い。
日常が充実していないからなのか、単に歳のせいなのか、それが曖昧だ。
それでも銀座は子供の頃の遊び場で、婆さまと違って喜びはしないが、郷愁のような感覚はある。

松屋だったか松坂屋だったか記憶は定かではないが、売り場にはカゴに入れられたオームが一羽いて、言葉を覚えさせようと「バーカ、バーカ」と教えていたら、女店員に鬼の形相で怒られたことがある。
その女店員も、もうとっくに婆さまと同じ年齢か、それよりも上で、もう彼岸の人になっているかも知れない。
当時の銀座のデパートガールといえば、さすがにスッチーは別として、バスガイドやタイピストなどとともに、女性の職場としてナンバーワンの職業だったはずだ。
子供だったとはいえ、それにしても私はバーカだった。
今になって思い出し、反省している。
小学生、中学生まではこの銀座が遊んでいて楽しかったが、高校に入ると、同じ「銀座」でも、今度は北アルプスの表銀座の方に関心が移った。


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さて、帰宅してみると、インターフォンが液晶になっていた。
午後に取り付け工事があったはずで、留守番をショーコに頼んでいた。
最初は職場のフィルダースチョイスであるエミが買って出てくれたのだが、以前にもどこかに書いたけれど、留守番を頼んだら、食糧を食い荒らされた苦い経験があるので、今回はていねいにお断りした。
今では液晶など当たり前なのだろうが、これでチャイムが鳴っても、ドアスコープを覗く手間が省けて便利になった。
ということは、さまざまな勧誘や訪問販売も瞬時に分かるわけだ。
仕事だから必死に各世帯を回っているのだろうけれど、居留守を使われて可哀そうだなと考えないでもない。
それでも何か必要があれば、こちらから頼んだり買ったりするから、突然の訪問や勧誘は余計なお世話で、アポなしの場合、ドアを開くのは郵便か宅配に限る。
面白くない一日だったが、これは歓迎する。

もっとも、入居時は管理費が9,800円で、ずいぶん安いと思ったものの、現在は修繕積立金などの名目で、毎月24,000円を口座から引かれている。
それでもこうして自己負担なしで取り付けて貰えるし、ベランダの防水加工や外壁の塗り替え、貯水槽清掃、排水管清掃もしてくれる。
名目上は町会にも加入しているが、町内いっせい清掃なども、管理人さんが何とかしてくれているはずだ。
屋内では換気扇とガス器具チェック、防火と防炎器具取り付け、サムターン回し対策、地デジ化工事など、すべてを管理組合やマンション販売会社直営の管理会社がやってくれるので、戸建よりも暮らしやすく、マンションライフは快適だ。
100世帯もあるので、最近では電気料金軽減のために、民間からの「大口電力購入」も決まり、それによって年間で30%の電気料金を減らせるようになるらしい。
もちろん、共用部分の照明は、すべてLED電球に変わっている。


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ショーコは、レンジ回りもきれいに磨いてくれていた。
さらに気付いたのだが、室内も、くまなく掃除機をかけてくれたらしく、すこぶる気持ちがいい。
やはり食い逃げ女に頼まなくて良かったと安堵し、ありがたく感謝の気持ちで胸が温かくなった。


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冷蔵庫の扉にはメモが貼り付けてあり、
「おそらく夕飯はまだだと想像したので用意しました、良かったら食べてね。もし済んでたら夜食にどうぞ」
と、庫内にお寿司まであった。
特上とはいえないけれど、今日一日で一番おいしい食事になった。
これが泣かずにおられようか。
職場でも、美人で教養人あることは誰もが認めているところ。
才色兼備とはショーコを指す言葉だろう。
婿さんを探してやらなければいけないな。
いや待てよ、エミの例もあるし、これが後で高いものにつくかも知れない。

とにかく、明日からの二日間が本当に大変な日。
また早朝からだが、気合いを入れて乗り切ろう。



画像ところで、いまショーコに連絡したら、顔出しOKのお許しが出た。
条件は、
① 目線を入れる。
② なるべく小さなサイズで載せる。
③ ドライブに連れて行くか、ランチかディナーをご馳走する。
やっぱりね…。
それでも、目線を入れても、こんなに美人なのだ。
モデルでも立派にやっていけるのに、もったいない。
でも、3Kの地味でしんどい仕事を選んだその気持ちが、また嬉しい。



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この記事へのコメント

エミ
2011年11月14日 22:57
クレオパトラと私とショーコが世界三大美女です。
拾碌
2011年11月15日 09:35
その通りです。
管理人
2011年11月19日 15:19
へぇ、そーなんだぁ~
勉強になりました。
(ーー;)
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