三角顔で私を睨みやがります


運動不足なのかカロリーの摂り過ぎなのか、階段の上り下りはユーウツだし、ズボンも少しきつくなったような気がする。
ズボンがいつからスラックスを経てパンツと呼ばれるようになったのかは思い出せないが、パンツとは下着を指す名詞で、トランクスやブリーフのことだ。

かき氷がフラッペになり、アイスクリームがジェラートになり、お持ち帰りがテイクアウトになり、スパゲッティがパスタになり、ピザがピッツァになり、朝鮮民主主義人民共和国が北朝鮮になり、伊藤博文が野口英世になり、新井由実が松任谷由実になり、薬屋がドラッグストアになり、千曲川が信濃川になり、別珍がコーデュロイになり、運動靴がスニーカーになり、サッカーファンがサポーターになり、ダイエーがソフトバンクになり、ちり紙がティッシュになり、チャーハンがピラフになり、イナダがハマチになり、静岡県の清水市が清水区になり、オカッパがボブになり、ディスコがクラブになり、シャツがインナーになり、司会者がMCになり、おしゃべりがトークになり、ケーキ職人がパティシエになり、サンヨーがパナソニックになり、コンドーさんがスキンになり、不純異性交遊が出来ちゃった婚になり、スッチーがCAになり、中高年がシニアになり、味見がテイスティングになり、別れた男女が元カレや元カノになり、大化の改新が乙巳の変になり、背広がスーツになり、こぶ平が正蔵になり、かつて神童と呼ばれた美少年の私がへっぽこおじさんになり、友人のまた友人だった鵜飼クンが四年前にタイへ行って帰ってから鵜飼おねーさんに変身してお化粧してばかりで鵜を飼わずに猫を飼い、別の友人のまた友人だった犬養サンも犬を飼わずに猫を飼って、そんでもって散歩がウォーキングになった。
ようするに、少し減量しようということだ。
まだ書き始めたばかりなのに、少し疲れた。

移動は駅一区間。
ならば電車ではなく、散歩のつもりで足を鍛えようと考えた。
国際宇宙ステーションから戻った古川さんは、長期間の無重力生活で、帰還しても歩けず、椅子に座ったまま救助回収された映像が流れた。
古川さんはアメリカへ渡って、二ヶ月近く、地球生活に対応できる体へ戻るためのリハビリをするらしい。
でも宇宙へ行けない私は、重力の作用とバランス感覚で、ちゃんと立って二足歩行ができる。
当たり前のようだが、我々は重力や引力を有する地球に感謝しなければいけない。

人間は足から死んでいくというから、足腰を鍛えたい。
健常者や高齢者は、歩行が困難になって初めて、障害者たちの気持ちが分かり、もっと足腰を鍛えておくべきだったと後悔する。
後悔は先に立たないから、それが人間らしくもあり、また、学習能力がない動物でもある。
歩けなくなるほど自分の体が情けないことはない。
だから歩く。

二足歩行ができるのはありがたい、そんな事をつらつら考えながら歩いていると、道の真ん中でうずくまっている、六足歩行のカマキリを見つけた。


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一見、細い枯れ枝のようだったので、危うく踏みそうになって、たたらを踏んだ。
たたらはいくら踏んでも構わないが、生き物を踏み潰すのは避けたい。
弱々しい日射しと、ほぼ無風の午後。
そこに、じっとうずくまっているカマキリ一匹。
しゃがみ込んで観察していても、微動だにしない。
季節を思うと、もう命が尽きる寸前なのだろう。
それでも首は回るようで、三角の頭をこちらに向けて、私を凝視している。


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表情がないので何を考えているのかは分からない。
本能だけで、この状況は危険と判断しているのかも知れない。
感情移入をするのは、こちらが感情を持った人間だからであって、奴はそろそろ寿命が終ろうとしていることにも気付いてはいないのか。
痩せて細い体は、もう産卵を終えたメスなのか、それとも無事に交尾を終え、メスに喰われることもなく、子孫を残すという昆虫本来の目的を達したオスなのかは不明。
カマを振り上げてこちらを威嚇することもなく、ただ私を見つめるだけだ。
動くものに反応する習性だけかも知れないが、明らかに私と視線を合わせているように見えるから、逆に私の顔や表情を観察しているようでもある。
どんなに大きな相手でも、前足を目いっぱい踏ん張って上体を上げ、カマを振りかざして威嚇するのがカマキリ本来の姿だし、危険を察知すれば、素早く逃げるのが本能のはず。
その行動がないのが、生命の儚さを誘う。


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死にゆくカマキリで、一句作ろうとしたが、大した句は浮かばない。
浮かぶのは有名な句ばかりで、中には歳時記を見なくても暗誦できる句も多い。
カマキリの生命力が、大胆な写実で表現されているのが以下の句。


かりかりと蟷螂蜂の貌を食む   山口誓子

蟷螂の鋏ゆるめず蜂を食ふ   同

蟷螂の面三角にいかりけり   伊夜日子

蟷螂の翔びて怒りををさめたり   加藤かけい

いぼむしり狐の如く振りむける   剣々子



思わず唸ってしまうような、滑稽な句もある。


蟷螂に負けて吼立つ子犬かな   村上鬼城

堕ち蟷螂だまつて抱腹絶倒せり   中村草田男

蟷螂の怒りまろびて掃かれけり   田中王城



しかしこの季節に沁みるのは以下の句だ。


大いなる蟷螂にして衰へぬ   杉本禾人

風ふるる眼玉さびしきいぼむしり   石原舟月

蟷螂の目に死後の天映りをり   榎本冬一郎



さよなら三角、また来て四角。
四角は豆腐、豆腐は白い、白いはウサギ、ウサギは跳ねる、跳ねるは蚤、蚤は痒い…。
後は忘れた。
寅さんのような四角顔でも、次に生まれる時は人間になりなさい。
オスに生まれれば、やはりきれいなおねーさんの餌食にもなるだろうが、足元を気にせず歩く人間に踏み潰されるよりはマシだろう。
私は目を三角にしたおねーさんから睨まれたことも多々あるけれど、銀座などで売っているキラキラ光る石コロでも与えれば、込み入った事態でも簡単に解決できるから安心していられる。

消えゆく小さな命を感傷するのは、何にでも感情移入してしまう人間の性であるにしても、力のない太陽が一年でもっとも低角度に傾く冬至まで、あと一ヶ月弱。
先日亡くした身内の四十九日に、ほぼ重なる。
まだ東京には本格的な冬将軍も来ていないのに、もう春が恋しい。

おそらく腹を空かせているのだろうが、食べる獲物もなく、逆に、越冬する野鳥の餌食になるか、人間に踏み潰されるだけの終末の生命。
まったく動こうとしないカマキリの尻(本当は腹)をチョンチョンと押してやり、三角顔のカマキリを草の茂みまで追いやった。

家に戻ると、温かいコタツに潜り込んで、テイクアウトのピッツァとジェラートなんぞが食べたい。
本当は、散歩よりもコタツが好きな私。
欲は言わない、カマキリの三角頭のようなおにぎりでも妥協しよう。
お昼に食事したばかりなのに、どうしておなかが減るのか。
空腹だと、俳句など出るわけがない。


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