記憶にございません


親不孝だった不肖の息子が、この時期になると、ポツポツとおかんの遺品の整理をする。
何年経っても遅々として進まず、今年もまた、ちょこっとだけ手を付けて終わりにした。
衣類はすべて何らかの形で処分したものの、膨大な書籍(ほとんどが短歌の本)や原稿や写真が、ほぼ未整理のまま残っている。
本棚には、おかんの遺した本が、ズラーッと並んでいる。
私が生きているうちにどうにかしなくてはいけないのだが、まったく目途が立たなくて困っている。

何が入っているかも分からない大きな紙袋から、新聞の切り抜きを発見した。
兄と私のことを書いた投書だった。
おかん、三十三歳の時のものだ。


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     とっても強いお兄ちゃん


「おかあさん、おにいちゃんとってもつよいよ」 幼稚園の二男坊が、目をキラキラさせながら私の顔を見ての開口一番はこれでした。
「ふうん、なにが?」 「あのねボクのこといじめた子、なぐっちゃったよ」 「あれ」 私は何と答えてよいやら、一瞬とまどってしまいました。
 まる六年もの間があるのに、いつもケンカばかりしている兄と弟。一つ打ったといっては、必ず数以上のお返しをする兄。
「お兄ちゃんが――」 とすぐ告げ口をする弟。たった二人の兄弟で、どうしてこうもケンカが絶えないのかと嘆きながら、毎日の大岡裁きに頭を痛めている私。 「仲よくしてよ、仲良くしてね」 の言葉も今や念仏のようになったかの感がある昨今です。
 ところが、去る土曜日 「きょうはお昼までだから、僕がつれて帰ってくるよ」 とアニキらしいところをみせたものの、その日に限って、運悪く当番やなにかで、予定より二時間も帰る時間がおくれたとのこと。幼稚園も学校と同じ建物内にあるとはいえ、さすがに弟は心細かったのでしょう。そこへ兄の同級生が来てからかったものですから、寂しさも加えていっぺんに泣きたくなったのに違いありません。それでそこにいた二人をやってきた兄がなぐっちゃったのだそうです。
 私は、しかしやはり暴力はいけないということを強調してから、こんな仲の良い時は、少しはほめて、その中にあるものを伸ばしてやるべきではないだろうかと思いました。
 二人はまだきょうの興奮がさめやらぬのか、話がはずんでいます。
「またいじめるやつがいたら、お兄ちゃんにいうんだよ、すぐカタキとってやるからな」
「うん、おにいちゃん、すごーい」




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兄は、日本人男性の平均寿命を三十年近く残して逝き、おかんは、二十年を残して逝った。
今日は、母の命日。


 逝きし母 書架の背文字や 初ちゝろ   多蘭



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