神様の無意味ないたずら


国電を今は何と呼ぶのだろう。
かつては評判の悪かった「E電」も、どこかへ消えてしまった。
消えたと思っているのは私一人で、実は私の知らないところで密かに通用しているのかも知れない。
まあそんなことはどうでもいい。
首都圏の在来線として置こう。

昨日、その在来線に乗った。
午後の半端な時間のせいか車内は割と空いていて、座席も確保できた。
一時間ほどの移動なので、文庫本を取り出して読み始めた。
次の駅に停車すると、きれいなお姉さんが乗って来て、私の隣に座った。
私、キャリアもあって出来るんです、という感じの、いわゆるアラフォー世代と思われる美女だった。
ケータイをちょっと見て、メールか何かを確認し終わると、大きいショルダーバッグから何やらムズカシそうな書類を出して、ペラペラめくりながら、時折ボールペンを走らせている。
私は別にそのお姉さんを観察しているわけではなく、どうしても視線の端に入ってしまうのである。
そこのところは誤解してはいけません。

お姉さんは書類のチェックが終わると、それらをバッグに仕舞い、首をグルリと回して大きなため息をついた。
出来る女性も肩が凝るようで、お疲れのようだ。
お姉さんは左右を見回し、隣の私に声を掛けて来た。
「あの、ちょっとお聞きしたいんですが…」
あまりきれいでないお姉さんには、日常的に声を掛けられている。
しかしきれいなお姉さんから、という状況は久しく無い。
ジロジロ見るなとか、あんまり接近するなとか、加齢臭がキツイぞ、などのクレーム関係ではなさそうなので、ドキッとしながらも、
「何か?」
と余裕を持って答えた。
ジロジロしてないし、接近してないし、加齢臭だって年齢の割にはほとんど無いはずだし、世間に恥ずべきことは何もない自信がある。

「どちらまで行かれるんですか?」
これはいわゆる「逆ナン」なのではと、とっさに思った。
お姉さんの逆隣には、リクルートスーツの若いあんちゃん。
出来るお姉さんは、こんな青臭いガキは相手にしないのだろう。
どうだ参ったか、新米月給取りよ。

長く生きていれば、こうしてヨロコビやシアワセが訪れることもある。
それが今、正にこの瞬間なのだ。
外は雨模様だけど、止まぬ雨はない。
谷があれば山だって必ずある。
苦あれば楽あり、臥薪嘗胆、苦節十年、待てば鉄路の雨日和かな。
中年おやじの人生も、まんざら捨てたもんじゃない。
そろそろたそがれて来たおじさんだって、恋愛してもいいじゃないか。
これは私の感情の問題だから、誰にも止められないのだ。
わかったか、えへん!

「お茶の水まで行きますが…」
ガツガツしてはいけない。
ちょっとクールに告げた。
「私、四谷で降りるんですけど、もしご迷惑でなければ、その少し手前で起こして頂けないでしょうか」
「あ、はい。構いませんよ」
きれいなお姉さんは、安心してウトウトし始めたのであった。
コックリ始めるまで、1分とかからなかった。
睡眠不足でお疲れだったのね。
(ーー;)

昔から、よく声を掛けられる。
それはジジババであったり子供であったり中年おやじであったり年増女性であったり外人さんであったり、年齢性別国籍を問わない。
思い返せば、若くてきれいなお姉さんにだって声を掛けられていたのだ。
世間からは、おそらく人畜無害なヒトと見られ続けていたのだろう。
そのほとんどが、道や場所を尋ねるものだった。

外人さんが繁華街の雑踏でキョロキョロしていると、とにかく声を掛けられないように、うつむいて通り過ぎるようにしている。
ところが、なぜか決まって外人さんは私に声を掛けるのだ。
大体、どこかへ行きたいということくらいは判るので、なんたらかんたらの言語の中から、地名や場所の固有名詞だけを捉える。
後はしどろもどろで何とかごまかす。
まあ大抵はそれで伝わるから、今さら日本語以外を勉強し直そうとは思わない。
遺伝か後天的なものか判らないながら、どうにも困ったことで、私は声を掛けられやすい体質のようだ。
先日はボブ・サップのようなマッチョから最寄駅を聞かれ、激しく動揺してしまったぞ。
(T_T)

四谷駅に近付いたので、そっと声を掛けてお姉さんを起こした。
「あ、ありがとうございます」
お姉さんは立ち上がると、バッグを肩に、颯爽と電車から降りて行った。
この歳になると、神様は中年おやじのことなんか気にも留めないのだろう。
いや、あまりにもヒマすぎるから、たまには人畜無害なおやじでもからかって遊んでやろうとでも、きまぐれを起こしたに違いない。

恋愛に年齢なんて関係ないんだよ、とはよく聞くが、よくよく考えれば、恋愛するエネルギーなんて、もう残ってないもんなあ。
東京にはウジャウジャ人が多いから、イコールそれだけ出会いのチャンスというか、きっかけも多いと思うのは大きな間違いで、とんちんかんな幻想など抱くのは、それだけ無駄なエネルギーを消費するだけだ。
降り立ったお茶の水は涙雨だった。
人は多いけれど、みんなそれぞれの目的を持って、駅から離れて行く。
私も目的の場所へ急いだ。



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この記事へのコメント

きらら
2010年04月08日 23:20

アラフォーとか見栄は張りませんけど、きれいでデキルお姉さんを一人お忘れじゃありませんか?
エネルギーは食欲に向けましょう。
今度お食事に誘ってくださいね。
おなか減らして待ってま~す。!(^^)!
管理人
2010年04月10日 07:51
前回お会いした時に、きれいでデキルお姉さんのアッパレな食欲は拝見して承知しています。
(ーー;)
急な用事が入ることも多く、お食事会は今しばらくお待ち下さい。
必ず誘いますから、それまでに、もう少し胃袋を縮小しておきましょうね。
(^^)/~~~
きらら
2010年04月11日 23:06
またさつきさんとご一緒しますからよろしくお願いしま~す。
m(__)m
今度は中華バイキング→ケーキバイキングにしましょうね♪♪♪
\(^o^)/
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