中尊寺一字金輪仏頂坐像


家に閉じこもり、写真集を見ながら絵を描いている時だけは現実を忘れている。
でも現実って何だろう。
今日は体の中に心がない。
森羅万象すべて、今は禅や古典、雪月花までもが無常だ。
多分どこへ行っても人生は寂しい。
この場では多弁だが、実生活では極端な無口で通っている。
もっと朗らかに暮らしたいと願う。


香焚いて仏画描きし部屋は冬  多蘭


口語と文語の混合は意図的なもの。

画像

厭世的な本文だが、実はこの少し前に、義母となるはずだった人の死に立ち会うため、北国のある都市に出掛けていた。
そして通夜から葬儀までを見届けて帰京した。

駆け付けた病室をのぞくと、義母の体には何本ものチューブやコードがくくり付けられていた。
風邪を引いていたので入室をためらったが、
「もう関係ないですから…」
と招き入れられた。
医者と看護師が来てチューブ類を数本外した。
『これ以上の延命処置は可哀想だ』
義母の苦痛は周りの苦痛でもあった。
食道がん。
余命半年。
前回逢った時点で、すでに義母は告知を受けていたと知った。
『スマートになりましたね』
愚かにも無神経な言葉を吐いたことを悔いた。

そして通夜。
日暮れて寺の本堂はほの暗く、そのせいか義母の遺影は心なし寂しげに見えた。
冷気が這い上がって来る。


燈明の揺れて老僧障子より  多蘭


外は雪。


通夜の後で、義母が遺した私宛の手紙を渡された。
今になって解る多くの事。
トイレに駆け込み声を上げて泣いた。
角砂糖が溶けるように、ぐずぐずに崩れて泣いた。

文面を胸の奥深くに刻み、告別式の棺に手紙を収めて斎場に向かった。
「今までありがとう。あなたは私の大事な大事な孝行息子でした」
骨を拾いながら達筆な文字が蘇り、また少し泣いた。

義母は私の母と仲が良かった。
『お義母さん、私の母に逢ったらよろしく伝えて下さい。息子は元気です、と…』



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この記事へのコメント

きらら
2008年04月05日 00:24
本当は触れてはいけない記事なのでしょうが、大切な人を送らなければいけない番頭さんの悲しみに胸が詰まります。
「仏像に恋をした」でも感心しましたが、絵がとても上手なので驚きました。
名古屋人
2008年04月05日 13:12
番頭さんは決して多弁ではありませんが、かと言って無口でも暗くもなく、逆に話題も豊富でとても愉快な人です。
一度オフ会でも開けばいいと思うのですけどね。
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