仁成館


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この日のデータも消失している。

「仁成館」の館名の由来を訊かれたのでキッチリと説明したいが、あいにく名前の由来は不明。
手掛かりになる資料や文献もなく、もちろん主人や先代も知らないようだ。
もしかしたら、江戸時代に仁兵衛さんと成右衛門さんの二人とかで始めたのかも知れない。
案外こんな単純なネーミングが正解ではないだろうか。
(あくまで勝手な憶測です)

各部屋に仁成館の紹介となるような小冊子を置くことに決め、ならばと私が制作を買って出た。
宿泊されたお客さんは気付いただろうが、果たして読んで貰えたろうか。
以下に転記するが、実際に宿泊客となって部屋に落ち着いたつもりで読んで頂き、バーチャルの世界に浸って貰えると有難い。


≪よく来たのし≫

ご挨拶

本日は仁成館へご来館下さいまして有難うございます。
秋山郷とは、江戸時代の文人、鈴木牧之の「北越雪譜」によって初めて世に紹介され、名峰苗場山と鳥甲山に挟まれた中津川峡谷に点在する十二の集落から成る地域の総称で、本州最後の秘境、また、平家の落人の里ともいわれています。
八百年も昔の落人伝説の真偽はともかく、現在の国道405号線は、江戸時代には越後から草津を経て上州や武州へと通じていた草津街道であり、佐渡産出の金を江戸へ運ぶための重要なルートだったことは史実のようです。
その秋山郷の最奥近く、日本有数の豪雪地帯である長野県最北の信越国境に位置し、現在では道路の除雪がおこなわれる冬はもとより、四季を通じて皆様にご利用頂いておりますのが和山温泉「仁成館」です。
当館の源泉は江戸時代後期、秋田の阿仁マタギにより発見され、以後、その湧出は絶えることなく現在へと至っています。
お勧めはなんといっても露天風呂です。
昼は雄大な鳥甲山の景観をほしいままにしながら、夜はランプの灯りの下で満天の星団を見上げながら、また、鳥甲山の岸壁を青白く神秘的に浮かび上がらせる月夜の入浴も魅力です。
そして春の山菜、秋のキノコ、渓流のイワナなど、当地ならではの山の幸をふんだんに使った料理もぜひご賞味下さい。
私が直接山へ入り採って来たものを中心に、田舎料理ではありますが、あくまでも素材本来の味を生かし、常に「旬」のものをお出しするように心掛けています。
そのため、日によってメニューの増えることがあります。
それは多くのものが収穫できたときです。
例えばタラの芽、ネマガリダケ、マイタケなどは、そのまま焼いて塩や味噌だけで頂くのが一番ですし、ヤマウドはお刺身が絶品です。
それもこれもすべてその日に採って来たものだからこその味わいなのです。
前日のお客様はもちろん、翌日お泊りになるお客様も召し上がることが出来ないかも知れない、今日だけの味なのです。
それが本当の意味での「旬」と言えるのではないでしょうか。
さて、今日の夕食はどんな「旬」が出てくるでしょう…。
各お部屋にはテレビがあります。
けれど今日一日は自然の奏でるさまざまな音に耳を傾けてはいかがでしょう。
余計なことを言うな、とおっしゃる前に、ぜひ試してみて下さい。
せせらぎの音、風のささやき、虫たちの声。
せっかくこんな山奥に来たのですから、この大自然を五感すべてで感じてみて下さい。
かつて、長塚節や若山牧水などの文人墨客も逗留した当館で、川や風や虫の音を肴に、しみじみと酒を飲むも良し。
早く床について夜中や早朝の露天風呂を独占するも良し。
すると、何もないこんな僻地が、実は都会には無いものが数多くある、豊かな土地であることにお気付きになることでしょう。

館主敬白


簡潔にしないと読んで貰えないことは判っているのだが、この時はページ数を増やそうと、つい筆が滑った。
以後もダラダラと続く。


≪ぜひお読み下さい≫

★ 非常口は必ずご確認下さい。
★ 火災や災害などの際は、従業員の指示に従って避難して下さい。
★ 寝たばこや喫煙場所以外での喫煙はご遠慮下さい。
★ 貴重品はフロントでお預かりします。
★ お食事は一階食堂にご用意が出来しだい館内放送でご案内します。
目安として夕食が6時~6時半、朝食が7時半~8時です。
★ 当館駐車場でのお車の事故等につきましては、当館では責任を負いかねますのでご注意下さい。
★ お申し出のない場合の不慮の事故につきましては責任を負いかねます。
緊急を要する際は、すみやかにご連絡下さい。
★ 夜10時以降のご用命は極力ご遠慮下さい。
★ 翌日のお弁当が必要な方は、夕食時のなるべく早い時間にご注文下さい。

≪お時間があればお読み下さい≫

★ 山の宿特有の悩みです。
夜間のご入浴や食堂でのお食事などでお部屋を空ける際は、虫が入りますので、必ず消灯とともに窓をお閉め下さい。
★ 季節やその日の天候などで、内湯、露天とも温泉の温度が多少変化することがあります。
熱い場合はどうぞご遠慮なく水で薄めて頂いてかまいません。
ただ、出した水は必ず止めて下さいネ。
源泉100%だからこその薬効。
出来ればそのまま入られることをお勧めします。
★ 露天風呂は混浴です。
女性にはバスタオルのご使用をお勧めしておりますが、それでも男性が入っていれば、なかなか入りにくいもの。
何卒、男性側からのご配慮をお願いします。
せっかくの混浴です。
マナーや常識を守って楽しくご利用下さい。
余談ですが、ここ数年、男性がバスタオルを貸してくれとおっしゃることが多くなって来ました。
手拭い一枚では隠し切れないのでしょうか。
いずれにしても最近の面白い風潮です。
★ 登山や釣りで早朝にお発ちになるため、早くお休みになられるお客様もいらっしゃいます。
周りのお客様のご迷惑にならないよう、ご協力をお願いします。
★ バス利用の方は、お申し出があれば、和山バス停までの送迎をいたします。
★ 館主は秋山郷全般のオーソリティーと自負しております。
登山、釣り、地理、動植物、その他なんでも疑問にお答えし、ご相談に乗らせて頂きます。
ご遠慮なくお声をお掛け下さい。
★ 基本的には夫婦二人だけでなんとか運営している宿です。
忙しい時には近在のパートの方や、ボランティアの若者たちの応援をお願いしていますが、それでも至らないことも多いと思います。
お気付きの点があれば、なんでも結構ですのでご提言下さい。
★ お上からの通達により、ビールの自動販売機は午後11時から翌朝まで販売を休止させて頂いています。
ご理解の程、お願い致します。


弁当の注文を前日に受け付けるのは、翌朝に使う分のお米を量り、前夜に研ぐからである。
具にする鮭を解凍しておく必要もある。
冷凍保存のご飯もあるが、やはりお米は炊き立てを食べて貰いたかった。
もちろん炊いたご飯があれば、朝注文を受けておにぎりを作る。
『よし、おにぎりを握るか。手がきれいになって良いや』
主人は軽口を飛ばす。
当然だがこれは冗談。
商売だけに、衛生面には細心の注意を払っている。
ちなみに主人の握ったおにぎりは美味しい。
余分に握ってもらい、それを食べるのも楽しみだった。

ついでに言うが、ボランティアの若者とは、不肖わたくしのことである。
実際に若いのである。
よく間違われることがあった。
主人に向かって私のことを、
『良い息子さんですね』
と言うお客さんが何人もいた。
私は主人の息子ではない。
私の父は偏屈ではない。

そして秋山郷の方言や「のよさ節」の紹介が続き、「仁成館七不思議」なるものを仕立て上げた。
内容は他愛のないもので詳細は書かないが、以下の通りだ。


1 何度かけても電話がつながらない謎
2 ガムテープの謎
3 はじめから布団が敷いてある謎
4 愛犬「バン」の行動の謎
5 愛犬「アーサ」命名の謎
6 実在する隠し部屋の謎


ここまで書いてネタが切れ、
「その他、当館への疑問がありましたらぜひお知らせ下さい。それを7番目の謎とさせて頂くことに致しましょう」
と逃げた。
(それぞれの謎ともいえない謎は、今までの記事にして来たので、そちらを参照して下さい)

そして退屈で長い約款を記入して終わる。

締めくくりは、

今回のご来館が、ご旅行の良い思い出となりますように…。

≪また来らっしゃれ≫


最終的に12ページの冊子になった。
これを主人と女将に見せ、OKを貰って各部屋に常備した。

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同時に、館内見取り図と避難経路を作って額に入れ、それぞれの部屋に掲げた。



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